産業オートメーション、EV(電気自動車)、スマートグリッド、太陽光発電インバータなどの分野において、電流センサの測定範囲(フルスケール)の選定は、データ監視の精度、装置の運転安全性、および長期的な運用コストに直結します。多くのユーザーが選定時にジレンマに陥ります。すなわち、測定範囲が小さすぎると過負荷でセンサのコア部品が焼損するリスクがあり、逆に大きすぎると微小電流の変化を捉えられず、データが歪んだり、プロジェクト全体のコストが高騰してしまう可能性があります。
では、どのように科学的に測定範囲を選定し、実際のニーズを正確かつ確実にカバーできるのでしょうか?本稿では、技術的ロジック、主要な影響要因、選定手順といった観点から、電流センサの測定範囲選定方法を体系的に解説します。
ある工場のインバータに取り付けられた電流センサの測定範囲が、モーターの定格電流の90%しかカバーしていませんでした。モーター起動時のピーク電流(定格の3倍)が測定範囲を超えてしまい、ホール素子のPN接合部が破壊され、信号処理ICも焼損しました。センサだけでなく、信号途絶によりインバータが停止し、生産ライン全体が停止するという重大な損失を招きました。
ある研究室で精密電子機器の電流試験を行っていた際、5A以下の微小電流を計測するために100A測定範囲のセンサを使用しました。測定範囲が大きすぎるため分解能が不足し、測定誤差が±2%以上にもなりました。これは試験で許容される±0.5%の誤差範囲を大きく上回り、結果として試験データが無効となり、開発期間が延びてしまいました。
電流センサの測定範囲と精度はトレードオフの関係にあります。
・測定範囲が広いほど、単位電流あたりの出力信号の分解能が低下します。
・逆に測定範囲が狭すぎると、瞬間的なピーク電流によって過負荷破損のリスクが高まります。
選定の本質は、「実使用条件をカバーしつつ、必要な精度を確保する」バランスを見出すことにあります。
電流の動作状態が、測定範囲の基本設計を決定づけます。以下のタイプ別に適切にマッチさせる必要があります。
過酷な環境は、間接的に測定範囲の適合性に影響を及ぼします。事前に対策を講じる必要があります。
電流センサの精度は通常「フルスケールに対するパーセント(%FS)」で表記されます。この精度要件が、測定範囲の上限を実質的に制限します。
センサは長期間使用することで内部部品が劣化するため、その点も考慮に入れて余裕を持たせる必要があります。

理論計算、装置マニュアルの確認、または事前テストを通じて、以下の3つの重要なパラメータを特定します。
「最大動的ピーク電流 × 拡大係数」の値に対して、さらに20~50%の安全マージンを加えます。
測定範囲が大きくなりすぎないよう、精度要件から逆算して上限を確認します。
大測定範囲センサはコストが高く、低電流域での分解能が著しく低下します。
例:10Aの電流を1000A測定範囲のセンサで計測すると、誤差が±0.5%から±3%に悪化し、精密監視用途には全く不適となります。
直流・交流・脈動電流の特性を区別せず、例えば交流専用のCT(変流器)で直流を測ろうとしたり、通常のホールセンサで高周波脈動電流に対応しようとすると、「見かけ上の範囲カバー」に終わり、実際には正常動作しません。
高温や強電磁環境下で安全マージンを確保しなかったり、高電圧絶縁要件を考慮せずに設置すると、実稼働中にノイズや発熱により過負荷トリガが発生したり、精度が劣化してニーズを満たせなくなります。
現時点の電流条件だけで測定範囲を決め、センサ劣化後の「有効測定範囲縮小」を考慮しないと、1~2年後に実動作電流が測定範囲上限に近づき、精度低下や故障頻発の原因となります。
電流センサの測定範囲選定の本質は、「正確なマッチング+適度な冗長性」という技術的バランスにあります。「大きければ安全」「小さければ高精度」という単純思考は通用しません。
「電流境界の明確化 → 動特性の評価 → 安全マージンの確保 → 精度要件との照合」という4ステップ法に従い、電流タイプ・環境条件・長期安定性などの要素を総合的に考慮することで、実使用ニーズを確実にカバーしつつ、精度と安全性を両立した最適な測定範囲を選定できます。
適切な選定は、センサ寿命の延長だけでなく、データ歪みや装置損傷といった連鎖的リスクを防ぎ、システム全体の安定稼働を支える基盤となります。
Q1:電流センサが測定範囲不足(過負荷)かどうか、どう判断すればよいですか?
A:出力信号が頻繁に上限に達する、ゼロ点ドリフトが継続的に増大する、外観に発熱やリード線の劣化が見られるなどの兆候があれば、測定範囲不足の可能性があります。標準電流源でテストし、測定範囲を超える入力に対して出力が変化しない場合は、過負荷と確定できます。より大きな測定範囲の製品への交換が必要です。
Q2:モーター始動のような動的電流シーンでは、測定範囲をどう決めればよいですか?
A:まず装置マニュアルや実測で始動ピーク電流(通常は定格の3~5倍)を把握します。そのピーク値の1.5~2.0倍の測定範囲を選び、さらに20~30%の安全マージンを加えて、瞬時衝撃に備えます。
Q3:測定範囲と精度をどう両立すればよいですか?
A:まずは精度要件を優先します。微小電流監視が必要な場合は小測定範囲センサを採用します。電流範囲が非常に広い場合(例:0~300A)は、マルチレンジ対応センサや「主センサ+補助センサ」による階層的測定方式を検討し、範囲と精度の両立を図ります。
Q4:高温・強電磁環境下では、測定範囲選定にどのような影響がありますか?
A:高温環境では、素子感度の劣化を考慮し、測定範囲に10~15%の追加余裕を持たせます。強電磁環境では、高EMC耐性のセンサを選定するか、測定範囲を若干広げて、ノイズによる誤トリガを防止します。
Q5:センサを長期間使用すると、測定範囲は変化しますか?
A:はい、変化します。ホール素子や磁芯の劣化により、線形性や有効測定範囲がわずかに縮小します。そのため、長期的な動作電流は測定範囲の70~80%以内に抑えることを推奨します。また、定期的な校正を行い、その結果に基づいて運用戦略を調整することで、常に実使用ニーズをカバーできる状態を維持します。