12月23日、国家エネルギー網が2025年11月時点の全国電気自動車(EV)充電インフラに関するデータを公表しました。それによると、2025年11月末時点で中国国内のEV充電設備(充電ガン)総数は1,932.2万基に達し、前年比で52.0%増となっています。そのうち公共充電設備は462.5万基で、定格総出力は2.1億kW、平均出力は約45.34kWでした。
国の全体計画では、中国は世界最大規模のEV充電ネットワークを構築し、「EV5台に対して充電器2基」という目標を達成する予定です。また、800Vプラットフォームの普及も進められており、単一充電ガンで480kW/600Aの出力が常態化しつつあります。さらに、今後はV2G(Vehicle-to-Grid:車両と電力網の双方向連携)やV2B(Vehicle-to-Building:車両と建物のエネルギー連携)への展開も視野に入っています。

しかし、出力が大きくなるほど動作環境も複雑になり、最初にその負荷を受けるのが電流検出技術です。
大出力直流急速充電(HPC)
大出力直流急速充電(High Power Charging、通称「スーパーチャージ」)は、現在EVの充電分野で最も注目されている技術分野です。俗に言えば、「ガソリンスタンドでの給油と同じくらい速く充電したい」というのが目標です。
現在、高速道路のサービスエリアなどで一般的な急速充電器の出力は60~120kW程度で、フル充電には40~60分かかります。一方、大出力直流急速充電は通常350kW以上、中には480~600kWに達するものもあり、「5分充電で200km走行可能」といった性能を実現しています。
このような高出力充電を実現するために、800Vプラットフォームと液冷方式が標準仕様となっています。従来のEVは多くが400Vプラットフォームを採用していましたが、充電出力を高めるには、電流を大きくするか、電圧を上げるかのいずれかが必要です。電流を増やすとケーブルが発熱し、太く重くなるため、実用的ではありません。そのため、電圧を800Vまで引き上げることで、過度な電流増加を抑えつつ出力を倍増させ、エネルギー損失も低減しています。
とはいえ、超急速充電時の電流は依然として非常に大きく、500~700Aに達することもあります。このレベルの発熱には従来の空冷方式では対応できず、液冷循環システムで熱を効率的に除去する必要があります。
直流急速充電における電流検出ポイント
直流急速充電スタンド内部における電流検出は、単に電流値を読み取るだけではなく、電源入力から充電ガン出力までの全回路にわたり、システム全体の中で重要な役割を果たしています。実際の設計では、コスト・精度・安全性のバランスを考慮し、各部位に適したセンサーが選ばれます。
一般的に、電流検出ポイントは以下の4か所に分けられます。
1. 交流入力側(電力系統接続部)
ここでは、電力系統からの入力電流を検出し、全体の消費電力計算・負荷バランス調整・漏電保護などに使用されます。
設置位置:交流ブレーカーの後、整流モジュールの前。
使用デバイス:電流トランス(CT)。
採用理由:
CTは交流電流測定において技術が成熟しており、コストが極めて低い。
電気的絶縁性があり、高電圧の電力系統と制御回路を安全に分離できる。
数百アンペア級の広範囲な測定が可能。
2. 直流パワーモジュール内部(コア制御領域)
これは充電スタンドの「心臓部」であり、通常は複数のAC/DC変換モジュールが並列接続されています。各モジュール内部では、フィードバック制御や均等電流分配のために電流検出が必要です。
設置位置:モジュール内部のPFC出力端子またはDC/DCトランスの一次・二次側。
使用デバイス:オープンループ/クローズドループホールセンサ、または統合型電流センサIC(例:芯森AN3Vなど)。
要求仕様:
小型化:モジュール内部はスペースが限られているため、PCB実装可能な小型センサが求められる。
高速応答性:特にSiC素子を使用したモジュールではスイッチング周波数が非常に高く、マイクロ秒レベルの応答速度がなければパワー素子が破損するリスクがある。
3. 直流出力側 — 制御・保護ポイント(安全ガード)
パワーモジュールからの電流が合流した後のメインプラス/マイナスラインで、車両への実際の供給電流を監視します。
設置位置:直流コンタクタの前後、主回路の銅バー上。
使用デバイス:クローズドループホール電流センサ。
採用理由:
高絶縁性・高ダイナミックレンジ・高信頼性。
主回路の安全監視として、EMC耐性(電磁妨害耐性)が極めて重要。
センサは銅バーの外側に取り付けるだけで済み、回路を切断せずに非接触で測定可能で安全性が高い。
充電スタンドの制御ユニット(TCU/CCU)にリアルタイムで正確な出力電流値を提供。
4. 直流出力側 — 課金計量ポイント(請求の根拠)
これは車両に最も近い検出ポイントであり、ユーザーの請求金額を直接決定します。
設置位置:直流出力の最末端。
使用デバイス:高精度シャント抵抗(分流器)+直流電力計(直流電力量計)。
採用理由:
現在の法規制では、国家認証を受けた直流電力計(シャント抵抗と組み合わせたもの)のみが合法的な課金計測に使用可能です。
600Aの大電流下ではシャント抵抗の発熱が深刻ですが、その長期的な直線性と安定性は、現時点の磁気センサでは代替困難です。
個人的見解:将来的には、フラックスゲートセンサ(磁束門センサ)がシャント抵抗の代わりに課金用途で使われる可能性があります。フラックスゲートセンサは非接触測定の利点を持ちながら、シャント抵抗に匹敵する高精度を実現できるためです。

V2G/V2B時代の電流検出
超急速充電(HPC)アーキテクチャにV2G(Vehicle-to-Grid)やV2B(Vehicle-to-Building)が導入されると、エネルギーの流れが「片方向」から「双方向」へと変わります。この技術はすでに実証段階を超え、実際の電力系統への接続が始まっています。例えば広州では、V2Gを活用して毎月数千元の収入を得ているユーザーもいます。
双方向充放電では、電流検出に対する要求がさらに厳しくなります:
電流方向の変化:電流はバッテリーに向かって流入する場合もあれば、逆に電力系統へ戻す場合もある。
シャント抵抗の課題:双方向測定において、正方向と負方向で精度が異なる(オフセット誤差や非対称性)問題がある。
系統連系の安定性:電流サンプリングのドリフト(経時変動)は、電力計算や系統制御に直接影響し、ひいては電力網の安全性やエネルギー調達計画を脅かす可能性がある。
この点で、ホール電流センサは双方向測定に天然的に対応可能であり、広帯域・低ドリフトという特性から、V2G用途ではほぼ必須のデバイスと言えます。
電流センサ選定のキーポイント
エンジニアがホール電流センサを選定する際には、以下の指標を特に重視します:
定格電流および過負荷耐性
精度と温度ドリフト特性
帯域幅と応答時間
絶縁耐圧レベル
取り付け方式(PCB実装、バスバー取り付け、貫通型など)
長期安定性および量産時の信頼性
これらの性能指標は、高電力・高頻度の充放電が繰り返される環境下での充電スタンドの信頼性を直接左右します。
まとめ
超急速充電・液冷技術・V2Gといった新技術の登場により、充電スタンドはもはや単なる「電力の転送装置」ではなくなりました。
それに伴い、電流検出技術も補助的な機能から、システムの安全性と制御の核となる「感覚器官」へと進化しているのです。